被災後に全国から届いた応援メッセ―ジ。能登ワイン・丸山さん「前を向くしかない」

2024年6月の住所地球えん能登応援フェスに登場した「能登ワイン」。同社の丸山敦史さんのお話を聞きながら、私も早速ロゼワインをウェブ注文。後日、友人と試飲し、ちょっと甘い香りと味わいが好評でした。

震災により、年間出荷量の1割以上の貯蔵ワインを消失

 2024年元旦、能登半島を襲った地震により、同社は、年間出荷量の1割以上にあたるボトル1万5千本分、約1万リットルの貯蔵ワインを失いました。

「これだけの損失を、どうやって取り戻せばいいのか」。丸山さんたちは、大きなショックを受けました。

(破損したタンクからワインが流出)

 さらに、併設する販売店の天井が落ちたり、陳列した商品が床に落ちて割れるなどの被害も明らかになりました。それでも鉄骨造りの構造と地盤のおかげで、同社の被害は他と比べると比較的ましだと思えたそうです。幸い9名の従業員全員が無事でしたが、皆自宅が被害を受け、避難所から出社する日々が続きました。

(陳列した商品が破損)

能登を背負うワイナリー。未経験からスタートし、コンクールで受賞

 能登ワイン株式会社が発足したのは、19年前。隣の輪島市の「のと里山空港」開港をきっかけに、能登を全国にPRしようと、穴水町が主体となり地元の企業などが出資した第三セクターとして同社が運営しています。遊休農地を活用し、クリ畑などをブドウ畑に造成しワインづくりを始めました。

しかし最初は、日本酒のイメージの強い地域でもあり、「能登でワイン?」といぶかしがる声がきかれ、期待と不安の中でスタートを切ったのです。また、社員は誰もワイン造りの経験がなかったので、国内のワイン生産先進地から技術を学びながら、試行錯誤を繰り返し、能登でのブドウ栽培とワイン醸造技術を確立してきました。

「5年くらいは、あまり売れませんでした」

穴水町出身の丸山さんは、当時を振り返ります。もともと地域の農協で働いていたのですが、町を背負う新事業に憧れを抱き、立ち上げ3年目から同社に参画しました。

そんな環境を、大きく変える出来事が起きました。

2008年の日本ワインコンクールで、同社のロゼワインが銅賞、赤ワインが奨励賞を受賞。この受賞を機に、地域住民が能登ワインを評価し、同時に事業のサポートを得やすくなりました。

並行して、工場見学やワインティスティングツアー客を無料で受け入れるなど、能登ワインを広く知ってもらうための活動を続けました。これらの努力が実り、コロナ禍直前には年間6万人の人が同地を訪れるまでに。しかし、コロナ禍で訪問者は激減、さらにワインの出荷量も大幅に減りました。

ようやく社会が通常に近づき、2024年こそ復活を、と考えていた矢先、能登半島地震が起きたのです。

全国から届いた応援メッセージと注文「悲しんでいる暇はない」

 避難所から出社する社員とともに、断水の中、皆で割れたガラス瓶を片付け、雨水で床を掃除しました。断水は2月下旬まで続きました。

 掃除の合間に、ふとパソコンを立ち上げた丸山さんは、驚くような情景を目にしました。

「全国から、応援メッセージとともに注文がたくさん来ていたんです。電話やFAXでの注文も含め、普段の10倍近いオーダー量でした」

 SNSなどで応援購入の輪が広がり、新しく能登ワインを知った人たちからでした。その声に応えたいと、被災を免れた商品の発送を1月10日から再開。道路状況が悪く、なかなか集荷に来てもらえませんでしたが、丸山さんたちはできる範囲で出荷しました。

「この応援購入には、本当に涙が出そうになりました。私たちもしっかり前を向かなければ、という原動力になりました。悲しんでいる暇なんかない、と思えたんです」

やがて断水が解消され、3月上旬には瓶詰め作業を再開。4月30日からは通常営業を実施し、ワイナリーへの観光客受け入れも行っています。丸山さんは、地震からの日々をこう振り返ります。

「実際は、仕事どころではない状態の社員もいたのですが、支え合って、できることをコツコツやってきました」

(ワイン樽が並ぶ貯蔵庫)

廃業や人口減が続く穴水町。それでも前を向いて進むしかない

「能登応援ツアー」が企画され、能登へ行ってみたいという人も多いかと思います。ただ、まだ復興さなかで、大変な思いをしている人もいるのに観光してよいのか、と躊躇する気持ちもあるかもしれません。

ワイナリー再開後も、8月まではボランティアや工事関連人たちの訪問が多く、9月に入り、ようやく通常の観光客が訪れるようになりました。

「どうぞ来てください、と私たちは言いたいのですが、復興が進まない地域も多く、廃業した店舗などのことを考えると、うしろめたい気持ちを感じることもあります。でも、できることをやらないと、前に進めないと割り切るしかありません。自分たちが前に進んでいくことが、まわりにいる能登の方々の励みになるかもしれません」

丸山さんからは、複雑な思いが伝わってきます。

2024年10月時点の穴水町は、建物の解体が進み、町が広く感じると丸山さんは言います。もともと高齢者が多いという特徴がありましたが、震災を機に転出する人たちが増え、人口減が進んでいます。道路などのインフラが復旧しても、店舗が減ったことにより、以前よりも日常生活に不便を感じるようになったそうです。

「でも、観光バスが能登を走っている光景を見ると、気持ちが明るくなるんです。前に進んでいる!と感じます」

(収穫の様子)

「ありのままの能登を見に来てほしい」

震災直後から、能登応援として全国各地で能登産商品を扱うイベントが増えました。なかには、売上金をすべて被災地に寄付するというケースもありました。社員が各地に出かけるのは難しいのですが、能登ワインに関心を寄せてくれる人たちを、丸山さんたちは穴水のワイナリーで待っています。

能登ワインは、今年も収穫祭を終えました。4ヘクタールのブドウ畑を見下ろす小高い丘に立つ醸造所を、皆さんも訪問してみませんか?きっと、丸山さんたちが笑顔で迎えてくれることでしょう。

(夏のブドウ畑)

(ブドウ畑と社屋)

能登ワイン株式会社ホームページ:https://notowine.com/

◆◆特別コーナー:「能登ワイン」にはこれが合う!◆◆

能登ワインの魅力は、「フレンドリーな味わい」。日本固有の品種を使い、能登で育てたワインは、家庭の和食にぴったりです。特別な時のためのワインではなく、「ふだん使いのワインとして、日常で気軽に飲んでほしい」と話す、丸山さんです。

◆能登ワインのプロ、丸山さんによる「能登ワインとあわせると美味な食材ベスト5」◆

第一位 あんパンと赤ワイン

まさかの「あんこ」がベストマッチとは、びっくり!でも、赤ワインとあんこ、合いそうな気もします。甘党の方に是非。

第二位 餃子とスパークリングワイン

丸山さんのお気にいり。

第三位 うなぎのかば焼きと赤ワイン

日本料理レストランでも、好まれそうですね!

第四位 あんかけ料理(甘酢あんかけ肉団子、かに玉)とロゼワイン

やっぱり、中華にも合います!

第五位 きんぴらごぼう、すき焼きと赤ワイン

ピリ辛、甘辛も引き立てる赤ワイン。ますます可能性を感じます。

白ワインやロゼワインももちろん美味しいのですが、このランキングでは意外な組み合わせを生みだす赤ワインが活躍しています。しょうゆテイストと赤ワインが合うと分かれば、海外にもファンが増えそうですね。皆さんも、是非一度試してみては?

(インタビューに応じてくれた丸山敦史さん)

企画・取材・文/上沢聡子(岡本)  画像提供/能登ワイン株式会社

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