渋柿のジャムのような一夜のこと
わたしの暮らすちいさな田舎町は湿気が多く、渋柿の木は多くあれど干し柿を完璧に作り上げることはなかなかの至難の業です。
ただ、なり年には熊との競争ではありながらも、全てをヤツらにあげてしまうのはなんだか悔しく、わたしは渋柿をジャムにすることがあります。
山奥の朝晩はこの時期でも意外と冷え込むもので、引っ張り出してきたストーブにお鍋をかけ、刻んだ渋柿とお砂糖を入れコトコト炊きます。
さて、この度、第2回フォーラム「次世代を育む居場所づくり」の話題提供者のひとりに選んでいただき、自分の活動が地域の方々のご協力により進み出していること、活動を知り足を運んでくださる方がいらっしゃることを思えば、まだ社会の誰かのことを考える余裕はないものの、この たった数年の歩みの中でそのこと自体が今の、そしてこれからのわたしの「居場所」を作っていくのだろうと思い、この機会もその一つとなると確信し、幼い頃から緊張しいで話すことが苦手なわたしが、皆さんの前でお話しすることとなったのです。
本番の十日ほど前、初めてオンライン上で顔を合わせ、北海道の稲垣順子さんと熊本の前田則子さんとお話をしました。
ほんの数時間でしたが、お二人のお話しを聞いている間、とろ〜っと甘い渋柿のジャムを思い出していました。
あ、上の空だった訳ではありませんよ。
お二人の人生観には甘柿では作れない渋があるからこその深み、甘味が確かにありました。
あったかくて居心地も良く、
人生の岐路や選択、苦さ、悔しさ、それでもやりたいことをできる幸せ、人のありがたみ、全てを
「大丈夫」「わかるよ」って肯定してもらっている気がしました。
渋柿のジャムは最善ではないけれど工夫をもって生活を楽しもうとする知恵。いまの生活に満足し、手のひらの中にあるものを深く見つめる姿。
その印象がリンクしたのではないかと思いました。
本番当日もそのあたたかい空気はきっと伝わったのではないでしょうか。
出会えてよかったと感じるあたたかい余韻と共に、
さあ、また明日からも頑張りますか!と喝の入る一夜となりました。
河野 希咲(かわののぞみ)