与論島の芭蕉布を訪ねて
11月の中旬、父方の祖母の故郷が奄美大島であることから、脚の悪い母との旅行も最後かな、という思いもあり、思い切って家族旅行に出かけました。
両親、姉、私の4人です。私には下に弟がいますが、今回は4人です。
奄美大島は2泊3日、地元のガイドさんに奄美の自然を紹介してもらったり、たまたま奄美大島に来ていた銀座の着物屋さんに泥染の工房や、織元をご案内いただいたり、マングローブの原生林を、ボートに乗ってガイドさんにツアーしてもらったり、と楽しい経験ができました。
親戚とも数十年ぶりに会って、一緒にご飯を食べたり、祖母の実家や父の従姉の墓参りに行ったりしました。先祖や親戚とのつながりを感じた、ありがたい3日間でした。
奄美大島を満喫した後、父と私2人で与論島に足を延ばしました。私が前述の着物屋さんで求めた、与論島の芭蕉布の作家さんを訪ねるためです。
芭蕉布は一般的には沖縄のものと思われていますが、北限は与論島なのだそうです。天然繊維のためどうしても色がまばらになります。美しく見せるために黄色や緑、茶などでで染められていることが多いのですが、与論島の芭蕉布は天然のままでも、繊細な色味が統一されていて、とても美しいのです。
芭蕉布は葉芭蕉の葉っぱの茎から繊維を裂いて糸を績(う)みます(作ります)。茎の部分しか使わず、一本一本が短いので、それを結んで長い長い糸を作るのです。一反の着尺(着物)を作るのに数キロ糸を結び続けなければなりません。細く裂けば裂くほど長さが必要ですが、できあがった芭蕉布は、柔らかく見た目も美しくなります。
このような芭蕉布の着尺を一反作るのに、糸績みだけで一年かかるそうです。しかもこれだけでは生活できないため、他の仕事をやりながらの作業になります。布を折るのは目に見えない多くの作業のほんの一つの工程に過ぎないのです
お姑さんから受け継いだこの伝統を守り続けているのが菊友子さん。笑顔のとってもステキな作家さんです。糸結びがなかなかできない私の父にも笑顔で根気強く教えてくださり、績んだ糸で機織りの体験をさせてくださいました。
菊友子さんは旦那さん、息子さんと、与論島民俗村を運営されています。お姑さんの菊千代さんが、後世に残すために収集し、保存してきた民具や建物を守り、訪れる人たちに与論島の伝統的な暮らしを伝えています。それらに接すると、いかに与論島の人たちが、自然や神様を感じながら生きてきたか、そして今でも生きているのかわかる気がします。
ひるがえって東京のマンションに住む私の暮らしは、部屋の中にいると便利だけれど雨の音も聞こえず、気温もよくわかりません。自然と共に生きている菊さん一家を思い出しながら、私はどう生きていきたいのか、改めて考えています。
ゆか