たかが匂い、されど匂い
私はこの匂いが好き、この匂いがあれば眠れる、この香水をつけていれば元気でいられる、お味噌汁の匂いがしてくると小さい頃の日常の朝を思い出す。布団にくるまれていた感触も一緒によみがえる…。
お母さんのおなかの中で嗅覚ができあがってから今現在まで、毎日積み上げてきた匂いの経験が私たちの脳の中に匂いの貯金箱を作っていきます。普段意識することが少ないけれど、匂いがないと味もわからない、人の気配も感じなくなったり、生活の色が薄くなる気がします。火事や腐敗物の危険もわからなくなる。嗅覚は大切な感覚です。
繰り返せば嫌ではなくなるのも嗅覚なら、脳の貯金箱の中にない匂いに抵抗を感じるのも嗅覚。ヨーロッパでは緑茶がほうれん草の匂いみたいと言われてしまう、街中で干物を焼いたら警察が飛んできた!なんてエピソードも欧州からの参加者の方々から。
年齢と共に嗅覚は衰えるのに、嗅覚の低下は自覚が難しい。でも嗅細胞は毎日新しく生まれているので、トレーニングで予防も、回復も見込める、まずは生活の中の香りを意識して感じてみよう!と、ご用意頂いた香りを使って、「意識をして匂ってみる」というトレーニングをご一緒にやってみました。
いつもより、はるかにクリアに香りが感じられましたよね。
ご用意くださったのは手摘み体験のハーブ、ユズ、香りのスプレー、精油のボトルなど。ロンドンのAさんは日本の匂い袋。この匂いを嗅ぐと日本を思い出して懐かしい、匂いが消えないよう封をして大切に保管していらっしゃるとのこと。
そしてさらにしっかりトレーニングするために有効な、アロマ(精油)を使った訓練をご紹介しました。薔薇、ユーカリ、クローブ、レモンの4種類の香りを毎日朝晩20秒ずつ嗅ぐというヨーロッパでは歴史ある嗅覚訓練法。WHOもコロナ後遺症対策として提案しています。
でも、ユーカリやクローブの匂いがわからない方もいます。せっかく香りを嗅ぐなら知っている香りの方が脳のイメージが手伝ってくれます。そこで精油として手に入る、ユズ、ヒノキ、山椒、シナモン、カレーの匂い、湿布の匂い…などのご紹介へとお話が進みました。
皆さまの体験を伺ったり、質問タイムを挟んだり、画面越しだけれどもリアルタイムでお話ができる、しかも遠く離れた方々と!オンラインって素敵だなぁと感じた時間でした。
意識を向けて匂いを嗅ぐ、意識を向けて何かを感じる、意識を向けて動いてみる…生きる実感そのものですね!
レポート 中山道子(自由ヶ丘 香音主宰)